未来図書館の活動は、多くの学生の皆さんに支えられています。東日本大震災以降は、そうした学生達とともに復興人材育成に取り組んでまいりました。震災から10年以上が経過し、当時のことを知らない子ども達に向けて、大学生の目線からの震災伝承を発信する企画の一回目。今回は岩手大学の黒澤さんのレポートです。
私は震災当時小学4年生で、突然の大きな揺れやライフラインの一時的な停止に漠然とした恐怖は感じたものの、比較的周囲の被害が少なかったこともあり、日常生活の中で震災と深く向き合う場面はほとんどないまま過ごしてきました。しかし、映像・証言・その他データで改めてその被害の大きさを知り、実際に津波が来た場所に立ち、その景色を自分の故郷と重ね合わせた時、これまで想像の中でしか存在しなかった恐ろしさが現実として迫ってくるように感じました。同時に、今ではありふれた街並みのように見える風景もたくさんの方々の努力があって築き直されているものなのだと気づかされ、その有り難さを痛感しました。
今回の研修を通して、私は初めて陸前高田市を訪れました。「奇跡の一本松」も「気仙中学校」も文面・画面を通して見聞きしたことはありましたが、それらをはじめとする陸前高田の震災遺構を直接目にし、現地のガイドの方のお話を伺うことができたのは、内陸地域出身の自分が震災を自分事として考えるにあたって貴重な経験でした。
こういった感情に触れ、地震とそれに伴って発生する津波の脅威や、陸前高田で実際に行われている防災のための取り組みの重要性を自分のことのように捉えて学ぶという点で、今回の研修は大きな意味のあるものでした。しかし、それと同じくらい印象に残っているのは、自然の美しさ、ごはんのおいしさ、伝承館や道の駅で働いているスタッフの方々の生き生きとした表情といった、いわゆる一般的な観光地としての楽しみです。正直なところ、今回訪れるまで陸前高田市に対しては震災直後にニュースで流れていたような「被災地」としてのマイナスなイメージを少なからず抱いていたのですが、それは市の現状にはそぐわない遅れたイメージだったと知りました。また、ガイドの方も「市外・県外の人が陸前高田市を知ったり訪れたりするうえで、その入口として観光の役割は重要だと考えている」と仰っていて、観光を通して伝わるその土地ならではの魅力が良い人の流れを生み出す原動力になっているということを実感しました。自分の足で被災地を訪れ、その現状を知ることでイメージをアップデートし、更にその土地の魅力を発見することの大切さに気付けたという点においても、この研修は意義深いものだったと思います。
これらのことから、「自分は今回被害に遭っていないから当事者ではない」ではなく、自分から関わることで少しでも当事者に近づこうとすることが如何に大事かということを伝えたいです。それによって、自分の防災に対する意識も、被災地・被災者への見方も、多少なりとも広く深くなったと私は感じます。そして、これからもできる限り自分の足で被災地を訪れ、そこで見聞きしたこと、感じたことをより多くの人と共有できたらと思います。
陸前高田市でお世話になった皆さま、本当にありがとうございました。